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桃のムース
せわしない毎日に追われ、ふと気がつくと8月も過ぎて9月。
しまった・・・、今年はろくに桃を食べていないっ!!(笑)
 

私は果物が好きで、中でも桃は大好物のひとつである。
なんと言っても圧巻はかぶりついた時に口からこぼれるほどの水気。
水菓子とは実に良く言ったものだ。

そしてあの、歯が繊維に食い込む『ぞぶり』とでも言うようなあの食感。
思い出しただけで頬のあたりがきゅんっとなってくる。
仙果と評されるのも無理はなかろう。
高価ゆえに頻繁に食べられないのがまた想いを深める。

そして、軽く押さえただけで傷ついてしまうほどの柔らかさが貴重品扱いを要求し、それがまた桃を高価にしている原因の一つにもなっている。
歌にあるように『種が大きな果物は産毛も淡く傷つきやすい』のだ。


現在日本で栽培されている桃は、そのほとんどが明治以降に中国から導入された水蜜桃を改良して作られた肉質の柔らかい品種である。
それ以前の桃は肉質も固く甘みも少なく、食べるよりむしろ花を鑑賞するためのものだったらしい。

私はその当時の桃を見たことがないので想像するしかないが、今でも桃をデザインする時に使うような、あの先の尖った果実こそ桃本来の姿なのだろう。
桃太郎の桃も、黄泉津比良坂でイザナギが投げた桃も同じくこの桃だったに違いあるまい。

イザナギの説話や昔話からわかる通り、桃には邪気を払う力が込められていると信じられていた。
子供の健やかな成長を願うために桃の節句を祝うのも同じ由来である。


こうして改良された柔らかいはずの桃であるが、売られている桃の美味しさを見るだけで知ることは非常に難しい。
『皮が奇麗に色付いている』とか『サイズが大きいものほど美味しい』程度はまだしも『手で皮が剥けるかどうか』や『押して柔らかいもの』では店に嫌がられること必至。
結局『値段の高いものほど美味しい』なんて悲しい判別法に頼る他はない。

でも、もし買った桃が固かったり甘くなかったりしたら?
その時こそ腕の見せ所。

桃は水分が多いにも関らず比較的ケーキに仕立てやすい果物なので選択肢はいくつもある。
タルト、ショートケーキ、ロールケーキ、クラフティ、ピューレにしてムース、凍らせてシャーベットやアイス。
水分が多いため焼菓子にはあまり向かないが、応用範囲は限りなく広い。


しかし、美味しい桃を生で使うならばいざ知らず、コンポートなどに加工してケーキを作るならば、そのまま食べても美味しくない桃を使うべきなのではないだろうか。

ヨーロッパの人たちはそのままで食べても酸っぱくてそれほど美味しくないリンゴやアンズをお菓子に仕立て、素晴らしいケーキの数々を作り上げてきた。
もし、今、昔の固い桃が手に入るのなら、きっと素晴らしいケーキが作れるのではないかとも思う。
 

そのまま食べて美味しい果物を作り出してきた日本の先人たちの努力に敬意を評しつつ、昔の固くて酸っぱい果物に郷愁を覚える今日この頃である。


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2001/09/01 update